ミャンマーの源泉税①(第12回)

1.ミャンマーにおける源泉税

ミャンマー税制に関し一通り記載してきましたが、まだ触れていなかったものに源泉税の分野があります。そこで、まずそのポイントと概要について述べておきます。

特に多額の事業損失、含み損、事業休止、撤退等を余儀なくされている多くの日系企業にとって、利益が全く出ていないにもかかわらず、グロス金額に対し2.5%という多額の納税を強いられる源泉税(法人税の前払い)は、インパクトの大きな税でもあります。

ミャンマー源泉税ですが、源泉徴収の対象となる支払い項目はわずか3つ(国内における財貨・サービス提供、使用料、利子で、配当は課税なし)と極めて少ないのですが、その課税範囲が広範に及んでおります。特に租税条約が締結されていない日本の企業(そのヤンゴン支店等)にあっては、源泉徴収税の軽減、免除が適用されず、また源泉税の還付制度が現地では殆ど機能していないとの指摘も多く、大きな問題となっております。

しかも、2021年10月開始の新税制においても、法人税率引き下げ改正は行われましたが、肝心の源泉税には何ら軽減措置は講じられませんでした。

コロナ、政変等で大きな事業損失を抱えている中、更にミャンマー子会社の傷んだ財務諸表には源泉税が不良資産として長期間BS計上される事態は、今後も続くと見た方がよいのかもしれません。

2.ミャンマー源泉税の内容(給与以外の支払い)

No.  

 

支払の種類

源泉徴収税率
ミャンマー法人・ミャンマー居住者への支払い 外国法人(支店含む)、非居住者への支払い
1 利子の支払い 15%
2 ライセンス、商標、特許権等の使用料 10% 15%
3. 国家機関等が一般私企業に対し、入札、契約又はこれらに準ずるものにより、国内における財貨の購入、人的役務又はサービス提供に対し支払われるもの  

 

2%

 

 

2.5%

4. 一般私企業が他の一般私企業に対し、 契約又はこれに準ずるものにより、国内における財貨の購入、人的役務又はサービスの提供に対し支払われるもの  

 

 

 

2.5%

 

3.解説(対象となる支払い)

ミャンマーの源泉税は、大きく分けて、個人に対する源泉税(給与源泉税)と法人支払いを対象とした源泉とがあり、前者は「法律」で、後者は「各省庁が定める規則」により定められておりますが、ミャンマーで問題となるのは後者の源泉税であり、変更も容易です。

  • 源泉徴収の対象となる支払いは、①利子、②使用料、③契約に基づく財貨購入・サービス提供に対する支払いという3項目に限られます。一見シンプルですが、契約に基づく国内での資産譲渡や役務提供であれば源泉税の課税対象となりますので、③の課税範囲はかなり広くなっております。
  • この③ですが、国外で行われる売買、役務提供であれば、課税されないことになります。しかしそれ以外は原則課税であり、除外項目に関する具体的な定め等もなく、範囲が漠然としている面があります。
  • 1~4全体を見ますと、ミャンマーの一般企業がミャンマー法人へ支払う場合は、使用料のみが源泉徴収の対象となるのに対し、外国法人の支店等へ支払いの場合は、3項目のすべてが徴収対象とされており、法人間の源泉制度は外資依存型の源泉税体系となっていおります。
  • 外国法人のヤンゴン支店が赤字の場合、期中に源泉徴収(5%)されても、法人税の税額控除が取れませんので、日本では源泉税還付という話となりますが、ミャンマーでは財政事情から還付が事実上保障されておりません。長期の還付未収金は現地国家に対する金銭債権でもあり、国家に対する貸倒損失として損失計上しづらい点もあることから、例えば、還付が困難であれば他の租税債務との相殺を認める等、政府の責任を明確にし、抜本的解決を図る必要があります。
  • 最後に1~4では、国家機関が発注者となり民間企業がこれに財貨・サービスを提供する契約の場合は、その民間企業がミャンマー法人か外国法人かを問わず、支払いに際し、原則源泉徴収される規定となっております。このため、ODA案件では発注者たる現地国有企業からの支払いについても、条約や国内法で源泉税が免税とされない限りは、源泉徴収の対象とされます。

 

以上のように、ミャンマーでは源泉徴収される範囲が極めて広くなっておりますが、この点に関し、諸外国では課税範囲を限定しているのが一般です。例えば日本の場合ですと、まず源泉徴収の対象となる事業収入について単に「財貨購入およびサービス提供」による収入とするのではなく、支払い内容を17に分類、限定して、その分類ごとに、①源泉徴収で完結するもの、②源泉徴収のうえ期末に法人税申告して精算するもの、③期末に法人税申告するだけでよく支払い時の源泉徴収は不要とするもの、に区分しております。更に、グローバルな課税制度を導入し、PE(恒久的施設)との関係で恒久的帰属所得なる概念を用いて、大変複雑な所得の認定計算も規定しております。つまり日本の源泉徴収制度は、課税範囲をより合理的なものに制限しようとする一方、分離課税、申告時精算課税、期末申告のみといった区分を設け、納税の仕組みを明確にしております。しかしながら、これをやりますと、同時にどんどん複雑、細かな規定、制度となってゆき、途上国での源泉税にはなじまない部分も出てきて、なかなか難しい分野です。

 

4.源泉税とインボイス

   支払いが源泉税の対象となるとき、請求書は通常以下のようになります。

売上$1,000,000
ミャンマー法人B社

(売主)

 

外国法人A支店

(買主)

                              

 

 

支払$1,025,000

 

 

 

請求書

A支店 御中

B社

 

売上        $1,000,000

商業税5%     + $50,000

源泉所得税2.5 - $25,000  

$1,025,000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように源泉税$25は、支払者(買主)A社がB社に代わって税務署に納税。

 

5.税引き手取契約について

売主B社側では免税売り上げが多く、または継続的に赤字の場合等々、法人税が発生しない場合、納付された源泉税は税額控除が取れず、かといって還付も保障されていないとなりますと、源泉税が法人税の前払いとはならず、単なる事実上損失となってしまいます。売主としてはこのロスを事前に回収するため、契約を手取り契約に変更し(売上入金額を源泉徴収する前の金額で取り決め)、不良資産化した還付未収金も損失計上しやすくする企業もあるようです。

ではもし、税引手取契約へ変更しますと、売り上げの請求書はどのようなるのでしょうか。次は、税引手取契約のインボイスです。

請求書

A支店 御中

B社

 

売上        $1, 025,641

商業税5%    + $51,282

源泉所得税2.5 - $25,641  

$1,051,282

 

 

 

 

 

 

 

 

 

売主としては、100万が手取り額として入金しますので、還付未収金が回収不能債権となっても、予想の範囲内です。一方、買主側では、グロスアップされた源泉税相当分が仕入金額の増加となり、商業税も若干増加し、買い手の負担が大きくなってきます。

つまり売手Bは手取りで100万ほしいと言っているため、買主Aは2.5%を源泉徴収した後の残りが100万となるような売上金額を逆算して求めます(グロスアップ計算)。

そうしますと$1, 025,641となり、これに2.5%をかけますと25,641となり、これが最終の源泉税です。