キャピタルゲイン課税申告書

1.新しいキャピタルゲイン課税申告書

これまで、法人税及び商業税申告書の最新版(2021年9月期以後、全外資系法人へ適用)の内容を取り上げてきましたが、もう一つ、キャピタルゲインの申告書も新しくなっており、見ておきたいと思います。なお、前回までと同様に、申告書とその記載要領の範囲内での解説となり、申告時における当局の指導等については、明確でないこと、予めご了承願います。
今回も申告書の記載と添付された記載要領には、わかりづらい点もあり、そこらあたりを中心に見てゆきたいと思います。
まず申告書ですが、2種類あって、取引のつど譲渡日から30日以内に提出する「Transaction Capital Gains Tax Return」(取引申告書)と当該事業年度内の譲渡取引を年間合計した「Tax Return Consolidated Capital Gains Tax Return」(年間申告書)とに分かれます。
商業税等の四半期申告と年次申告に似ております。ただ、キャピタルゲインの納税は翌月10日ではなく、譲渡日から30日以内とされております。

2.「Transaction Capital Gains Tax Return」(取引申告書)

申告書の構成は、次の通り。
(1)納税者情報
(2)Part A(譲渡金額)
(3)Part B(調整譲渡原価)
(4)Part C(キャピタルゲインの算定)
(5)Part D(追加情報) 等
 

3.Part A(譲渡金額)

課税される対象資産は、次の4つ。
・Shares and securities
・Land
・Property, plant and equipment
・Other assets
ここで「Property, plant and equipment」は、一般に「有形固定資産」と訳されていたかと思いますし、また解説にあるCapital assetの定義も、土地、建物(部屋)、自動車、その他企業活動に貢献するか又は企業の購入した資産とあり、かなり広い範囲の資産となっております。
また「譲渡」の内容ですが、売買、交換のほか、その他の譲渡(transfers by other means)も含まれる一方で、寄附、対価のない贈与、相続を原因とする移転は、キャピタルゲイン課税の対象となる「譲渡」には含まれないと解説されております。ではもしこのような取引が実際にあった場合は、どのような申告書を用いて申告するのでしょうか、後で触れたいと思います。
それから外国にある資産を譲渡した場合でも、原則として課税対象とされます。

4.Part B(調整譲渡原価)

上記4つの資産ごとに譲渡原価を計算します。調整譲渡原価は、取得価格等から減価償却累計額を控除して算定されます。

5.Part C(キャピタルゲインの算定‐‐特に複数回取引がある場合)

Part A(譲渡金額)からPart B(調整譲渡原価)を控除した残額となります。マイナスの場合は、ゼロと記載し、その後の項目の記載は不要とされ、申告しないでよいとは記載されておりません。赤字でも申告だけはするようです。

①税率は、原則10%です。この税額から「advance tax payments」があれば、控除するとあります。しかしこの「advance tax payments」とは何かですが、キャピタルゲイン取引に直接関連して生じる源泉税や2%前払法人税は、余り考えられないとしますと、例えば、一事業年度内で譲渡取引が複数回あり、1回目は譲渡益課税、2回目は譲渡損という時、2回目の申告時には、1回目の申告分も合算したところの合計額で申告し、前回前払したキャピタルゲイン税額を控除するようにも考えられます。

②もし、そうであるとしますと、Part Cの最後に「過払税額」欄がございます。1回目(譲渡益)を上回る損失が2回の取引で発生したため、合計譲渡金額が赤字となり、当初納税額が全額「過払税額」となると致しますと、当然還付対象とされます。しかし、事実上還付が困難と予想される場合、翌期繰越の欄がありますので、次年度で繰越して控除することも可能なようです。但し、商業税と同様、税務署の承認なしで次年度に繰り越せるのかは、不明。
ただ、実際問題として、キャピタルゲイン取引は、通常は毎年あるものでもありません。このため、もし同一事業年度内で譲渡益と譲渡損が生じる2つ取引が発生してしまうときは、赤字取引を先に実行しておなないと、結果として納税が発生してしまう事態も想定されます。時期的に離れている二つの取引を合算して、一回の申告で済ませればいいのですが。

6.Part D(特に、arm’s lengthでない場合の問題)

Part Dは、情報提供であり、関連会社間等でarm’s length(適正な第三者間取引価格)によらない譲渡取引があった場合、その旨を回答し、説明資料を添付する必要があります。そのほか、実際の取引価格がその取得価格とは異なるときも、資料を添付して、実際の取引価格が時価取引であることを説明する必要があります。
これに関し、上記Part Aでは、寄附や贈与を原因とする資産の移転は、そもそもキャピタルゲイン課税の対象となる「譲渡」には含まれないと記載されておりました。このため関連会社間で無償譲渡や低廉譲渡が行われ、それが適正な第三者間価格ではないと考えられるときは、ここでいう「譲渡」に該当しないことになります。では本件譲渡ではないとされると、一般の法人税申告書の対象取引となり、使用する申告書も変わってしまうのでしょうか。それとも適正取引価格をもとにキャピタルゲインを再計算し、申告するのでしょうか。法人税申告であれば、キャピタルゲインを一般営業損失と相殺できる一方で、税率は25%と高くなります。どちらの申告書用いた申告となるかにより、会社全体の納税額や納税時期が変わってきませんでしょうか。

7.年間申告書の記載もほぼ同様ですので、省略

8.取引申告と年間申告との関係

取引の都度申告し、かつ譲渡損益を年間合計して年末に申告することになっております。しかしながら両申告書の解説を見ますと、取引申告に代えて、年間申告のみでもよいという記載となっておりませんでしょうか。もしそうであれば、初めから年間申告のみで足りるのかと思いますので、一つの申告書に統一していただけると、助かるかもしれません。それとも納税がある場合は、取引の都度申告し、納税が発生しない場合は、年間申告のみでよいと言っているのでしょうか。もしそうであれば、赤字の場合の申告要否を含め、明確にしていただく必要がございます。 
いずれにせよ、年間申告のみでよいのであれば、例えば、Part C述べたように複数回取引があった場合の過払い税額のような問題は、そもそも発生せず、対策も考える必要はなくなるからです。