商業税の新たな申告書

1.新しい商業税申告書

前回は法人税申告書の最新版を取り上げましたので、今回はついでに新たな商業税申告書及びとその解説(記載要領)も見ておくことにいたします。
新たな申告書には、四半期申告(申告Form kathakha-5a)と年次申告(申告Form kathakha-11a)とがあり、前者の申告期限は四半期終了後の翌月、後者は事業年度終了後の3か月以内となっております。ただし、納税は月ベースで行うこととされ、翌月10日が納期限ですので、四半期申告書の提出期限内に納税すればよいというシステムにはなっておりません。
なお、この申告Form名がkathakha(カタカ)となっておりますが、ミャンマー語の商業税は「クントウエロウカンクン」という用語で、その頭文字をとり出し、これをローマ字表記したのが、(カタカ)という略語です。英語のCommercial TaxをC.Tと書くのと同じです。
四半期申告書及び年次申告書とも、計算期間以外は内容に殆ど変わりはなく、その解説には商業税の納税額計算にあたっての基本事項が記されております。申告書の構成は、次の通り。
① 納税者情報
② Part A(物品の販売に関する売上商業税)
③ Part B(国内で提供された役務提供に関する売上商業税)
④ Part C(当該期間の納税額又は過大納付額)
⑤ 申告書が適正である旨の宣誓文等
以下、申告書の特徴に焦点をあて、簡単に見てゆきます。

2.仕入れ控除(Part C)

何といっても商業税で一番問題となる仕入れ控除です。Part Cが仕入れ控除欄です。控除対象商業税として、Form31(物品・役務提供)とForm32(輸入商業税)の欄があります。ただ物品・役務提供に対しては、どの範囲の取引に対しForm31の発行が義務付けられているのかの詳細な規定はなく(非課税はあります)、また少額の支払いについて仕入れ控除を認める簡易請求書のようなものもございません。前受け金受領時のForm31についても、発行義務を明示した規定はなく、発行されれば控除は可能と考えられております。

3.仕入れ控除の留意点(不明、疑問等)

申告書及びその解説に記載されている範囲で、ちょっと気になった事項に関し、思いつくままに触れておきますが、当局に対する確認が必要かもしれません。

(1) 過大納税額の翌期繰越は可能か?
売上に係る商業税から仕入れにかかる商業税を控除しても、なお控除しきれない部分(過大納税額)が発生した場合、自動的にこれを次年度に繰り越し、控除できるのかどうかは、実務上も極めて重要な問題です。
四半期申告書では、発生した過大納税額は次の四半期で繰り越し控除する欄(Part CのLine5)が設けられておりますが、年間申告書にも同様に、前年度から繰り越された過大納税分を繰越控除する欄(Part CのLine5)があります。繰越控除欄の解説を見てみますと、「・・last quarter that you elected to have applied to this quarter’s tax liability」とあり、一見任意に繰り越し控除可能ともとれるような表現に見えますが、還付が事実上困難と言われている状況下で、本当に任意に翌期への繰越控除を許容する意味なのでしょうか。もしこれまで同様、翌期控除には当局の事前承認を必要とするのであれば、まさにこのLine5の解説欄において、そうした重要事項(事前承認の要否)を記載いただけると、納税は大変助かるのではと思われます。

(2) 過大納税額の損金算入
上記の翌期繰越に関連して、もうひとつ気になる仕入れ控除の解説があります。過大納税額は「shall be regarded as business expense and can be deducted in calculating income tax for that financial year」との記載との関係です。「shall be regarded as」ですので、そうしなければならないという義務の用語かと思いますが、上記繰越との関係はどうなってくるのでしょうか、この解説では繰越ができないことになります。shallではなく、正しくはcanであれば理解できます。

(3) 売れていない在庫商品の扱い
まだ売れていない在庫商品は、仕入れ控除の対象にならないとあり、商業税関係の法令にも既に規定されております。
対象がunsold goods (inventory)と英訳されておりますが、小売り・卸業を営む法人が対象となるのでしょうか。それとも製造業などでも原材料の棚卸は常に発生しますし、在庫となっている製品や仕掛品もありますので、製造業等の業種も含まれて来るのでしょうか。
また在庫に関連して、税額相殺のオフセットFORM33があります。FORM33は商品を購入しただけでは仕入れ控除できず、売れた時点で控除が認められるとの趣旨と理解する場合、商品売上が計上に際しては、それが当期仕入れ分から売れたのか、それとも前期以前の在庫から売れたのか、いちいちきちんと管理できておりませんと、商業税の正確な納税額が算定できなくなってしまいますが、そうした作業を税務上実際に要請しているのでしょうか。ここらあたり、実務はどうされているのか、確認が必要と思われます。
   
(4) 固定資産に係る商業税の扱い
2020年9月期を対象とする商業税申告書では、その解説において固定資産の取得に伴う商業税は、仕入れ控除の対象税額とはならないと記載されております。
ただ、ご承知のように、2020年5月15日付で突然、固定資産の取得時に支払った商業税も控除可能とする省令(計画・財務・工業省)が2020年5月15日付けで公表され、その適用対象年度は、2020年9月期から適用するとあります。しかし、適用時期に関する具体的な定めはなく、現時点(8月26日)では、文書も公表さておりません。このため改正後は、2019年10月以後に取得する固定資産については、取得に係る商業税は固定資産の価格を構成しなくなるのですが、このままですと、これまでの月次決算ベースの減価償却費も、期首に遡って取得価格を修正し、償却費を再計算しなければならなくなり、またコロナ特例として2020年9月期のみに適用が認められた特例措置(固定資産増加分に対する税額控除や割増減価償却費の特例計算)についても、本改正に伴う固定資産の取得価格を修正しておきませんと、特例措置の税額計算自体が不正確となってきてしまいます。
この適用時期に関しては、税務署に確認を求めますと、どうも担当者ベースとして口頭により、この省令の日付5月以降に取得した固定資産から適用してゆくと、回答しているようです。

4.その他(販売に関する売上商業税Part A及びB)

Part Aの物品の場合、税率は基本的に5%で、輸出はゼロ利率(仕入れ控除可)適用ですが、原油(5%)及び電力(8%)と輸出に対しても商業税がかかる場合があります。
また、Part Bの役務提供に対する税率は、一律5%です。
小規模事業者の免税制度はありますが、もちろん日本のような簡易課税制度(売上に係る税額をもとに控除対象となる仕入れ税額をみなし算定)のようなものはありません、商業税申告は原則課税のみです。仕入れ控除は、常にインボイスのみによって認められるとさるからかもしれません。