ミャンマー法人税 ③

1. 新しい法人税申告書

ミャンマーでは、自主申告を基本とする外資系企業専用の税務署MTO(2)が生まれたことに伴い、2020年10月より申告書も新しいものへ全面移行することとなりました。
法人税申告書、商業税申告書、キャピタルゲイン申告書等です。まだ、記載上よくわからない部分もありますが、基本的な部分のみ個人的見解も含め、解説しておきます。
まず法人税申告書ですが、patakha(wanga)-1aというフォームを用いて申告します。全部で7ページありますので、その掲載は省略します。
申告書の構成ですが、初めに法人情報の記載欄があり、その後Part A~Gと続き、納税額が表示されます。法人所得は3区分され、所得区分ごとにA~Cに記載しますが、Dで3つの所得を合計してしまい、その合計所得から繰越欠損金を一括控除し、Eで税額算定します。Gは、会計と税務の調整項目のようです。
A:事業所得(事業収入-経費)
B:賃貸所得(賃貸収入-経費)
C:その他所得(その他収入-経費)
D:課税所得(事業所得+賃貸所得+その他所得-繰越欠損金)
E:税額計算
F:当期と前期の貸借対照表比較
G:会計上の損益と課税所得
なお、個人所得税は、patakha(wanga)-1bのフォームとのことですが、ウェブサイトにはまだ公表されていないのではと思われます。
以下、申告書の特徴に焦点をあて、簡単に見てゆきます。

2.法人情報の記載欄

外資系子会社が申告する場合は、Resident foreignerにチェックを入れます。
所得税法の定義規定を見ますと、Resident foreignerには法人も含まれるとありますので、わかります。しかし一方で、初めに出てくるチェック欄は、Myanmar citizenです。所得税法にもこれに関する定義はありませんので、通常ミャンマーの個人を想定したものと思ってしまい、この申告書は法人用なのに、なぜ個人が出てくるのか、初めに迷います。しかし申告書の後の方にあるInstructionという解説を読んでみますと、Myanmar citizenにはdomestic company等も含まれるとありました。ここで初めて、法人情報の記載に当たり、citizenには会社も含まれ、ローカルのミャンマー法人も外資法人同様、この申告書を利用するのだと理解した次第です。
 しかしそのような理解でよいとしますと、申告義務のある法人が誰か、その範囲は極めて重要です。内国法人の範囲や定義は、申告書の書き方のところで記載するのではなく、本来法令で整理し、明確にすべきかもしれません。

3.法人所得の3区分

(1)事業所得、賃貸不動産所得、その他所得に3区分しており、過去イギリス統治時代の影響を受けた国々には、よくみられる分類です。また各所得ごとに、国内と国外に分けて記載するようになっております。外国法人の場合の課税所得を明確にしたのかと思いますが、今後、外税控除の導入も想定しているかもしれません。
ただいずれにせよ、所得を国内源泉と国外源泉に区分するのであれば、その区分基準をあらかじめ法令で規定しておく必要があるのですが、これまで何の手当もされていないようです。
それから事業所得では事業が複数ある場合、そのごとの所得明細も添付し、不動産も複数ある場合は、その物件ごとに所得明細を添付するとあります。決算書も分かれていない場合があります。
(2)また所得計算欄は、日本のように会計上の損益から出発し、加算・減算の税務調整を加えて課税所得を算出するのではなく、収入及び各種経費とも税務上の金額を記載する形になっております。
(3)事業所得ですが、商業税は経費にならないとPartAの経費欄に印字され、Instructionでも同様の解説があります。しかし、商業税は預り金ですから経費にならいのは当然ですが、これが仕入れ控除できない商業税(結構あります)に関しても、すべて経費にならないという意味としますと、諸外国からは大変理解しづらい取り扱いとなってきます。もう少しきちんと記載いただければと思います。
(4)それからInstructionでは、例えば臨時的、一回的な所得(但し、企業からのものとキャピタルゲインは除かれる)は非課税とありますが、これは所得の範囲を反復的・継続的に生ずるものに限定し、一時的・偶発的・恩恵的な利得を除外する考え方の名残かと思いますが、現在ほとんどの国では法人所得は包括的な広い概念としてとらえ、法令上、収益から除外する格別の規定がない限り、課税とする国々が一般のようです。
また、事業、賃貸以外の「その他の所得」という分類を設けてしまいますと、「その他所得」でも課税対象となるは何かという問題が生じ、実務上、課税所得の範囲が不明確となってくる可能性があるかもしれません。そのためかInstructionでは、債務免除益や償却済み債権取り立て益は、課税と解説しております。

4.課税所得及び税額計算

(1)課税所得は3区分されても、各所得は通算・合算されてしまい、その残った所得から繰越欠損金を控除し、所得税額を算定します。もちろん3所得のいずれかが赤字であっても、所得区分ごとに繰越欠損金を計算し、繰越すこともありません。
このため、基本税率25%以外の税率を使用する場合、例えば賃貸所得の10%、源泉不明所得(その他所得)の15%~30%等を除き、所得をその源泉ごとに区分することは、法人税申告書の記載上は、あまり意味がないようにも思われます。もちろん、法人内部での会計・管理資料の面からは、重要です。
(2)MIC Exemptionの対象となる所得は、この課税所得D欄で控除すると記載され、それ以外のSEZやODA関係の免税については、Instructionでも触れていないように見えます。