1.税引き手取契約について
源泉税に関連して、これまでお客様からちょっと特殊な問題として、企業間での「税引き手取契約」の相談がございます。通常のこれは出向契約などにおいて、日本からの海外へ赴任した出向社員に関し、現地給与の支払いを税引き後金額とすることにより、海外赴任と国内勤務とを比較し、海外赴任者の負担が増えないよう、負担の格差を是正する配慮から生まれたものです。しかし一方、企業間での「税引き手取契約」ですが、免税売り上げが多いとか、また赤字で法人税が発生しない等々の理由から、納税した源泉税につき、税額控除や外国税額控除が取れずに、外国法人税が事業損失となってしまうことうを想定し、であればこの源泉税相当額をコストとみなし、当事者間でその負担調整できないかとの発想から生まれたものと考えております。
しかしミャンマーの場合は、これに加え、源泉税の還付が行われるのかどうか、仮に行われるとしてもいつ還付されるのか、全く見通しが立たないケースが多く、還付未収金が実質不良資産化しているとの指摘を多くなされております。これを回避するため、税引き手取り契約により源泉税相当額を先に売りお上げ金として回収しておけば、還付未収金の損失計上時期を早められるのではと考える企業もあるように聞いております。子会社を監査する親会社の監査法人の手前もあり、後々手間がかからないよう帳簿を健全化しておくわけです。
2.「税引き手取契約」とインヴォイスの表示・・・源泉税率2.5%のケース
この契約に関し「税引き手取り額」とか、「グロスアップ税率」(手取り額から総支給額を逆算して算定するための税率)といった基本的な概念が出てきますが、これを理解しておきませんと、国際課税における源泉税の特殊な取り扱いがわからなくなってしまいます。
まず「税引き手取契約」にあっては、最終売上金額は、常に税引き手取り額に最終源泉税を加えた金額となります。
税引き後の手取り金額から出発して、税込みの総支払額を求め、この総支払額に法定源泉税率を乗じて最終源泉税額を算定するわけです。
例えば、税引き後の手取り額が$1,000,000と仮定しますと、源泉税率2.5%の場合、税込み総支払額は$1, 025,641と出てきます。$1,000,000を97.5%で逆算すると$1, 025,641となり、これに法定源泉税率2.5%を乗じますと25,641となり、これが最終源泉税額となり、グロスアップ税額とでも呼ばれております。
次に、商業税もこの総支払額$1, 025,641に対し5%が課税されますので$51,282となり、手取り契約でない場合の$50,000に比し、$1,282商業税も増加します。
整理しますと、
- 逆算税率(グロスアップ税率)の算定
100%-2.5%=97.5%
- 総売上(支払金額)の算定
1,000,000(手取り額)÷97.5%=1, 025,641
- 最終源泉税額(グロスアップ税額)の算定
1, 025,641×法定源泉税率2.5%=25,641
- グロスアップ税率(手取り額から総支給額を逆算して算定するための税率)
グロスアップ税額25,641は手取り額$1,000,000に対し、その2.5641%に相当し、
この2.5641%をグロスアップ税率といい、法定源泉税率2.5%よりも若干高い点
に注意願います
では税引き手取契約になると、発注先への売上請求書が通常の請求書と比較し、どう変わるのかを見るのでしょうか、請求書で確認しましょう。
まず通常の売上代金の請求書における源泉税や商業税の表示です。
例えば、ミャンマー法人B社がその工場生産ラインの設計・製作をミャンマーにある外国法人A支店に発注し、A支店が完成、引き渡するものとします。
1.通常の請求書
売上$1,000,000 |
外国法人ミャンマーA支店
(売主) |
ミャンマー法人B社
(発注者)
|
支払$1,025,000 |
売上請求書
B社 御中 A支店
売上 $1,000,000 商業税5% + $50,000 源泉所得税2.5% - $25,000 $1,025,000 |
支払者(発注者)B社は、支払金額から控除した源泉税$25を税務署へ納付。
商業税、源泉税は両者とも売上し対する法定税率を乗じた金額と同一です。
ではこの設計・製作の請負契約を税引き手取り契約に変更した場合、売上請求書はどのようになるのでしょうか、特に商業税や源泉税額に注意が必要です。
2.税引手取契約の請求書
請求書
A支店 御中 B社
売上 $1, 025,641 商業税5% + $51,282 源泉所得税2.5% - $25,641 $1,051,282 |
上記の結果、請求書ですが発注者Bは、①総支払額11,025,641の2.5%たる25,641を源泉税として税務署に納税する一方、②仕入れ代金1,025,641と5%商業税51,282を売主Bに支払います。商業税もこの総支払額$1, 025,641に5%が課税されますので$51,282となり、手取り契約でない場合の$50,000に比し、$1,282商業税も増加します。
3.「税引き手取契約」で源泉税率15%のケースでは
このように源泉税率が2.5%の場合は、そのグロスアップ税率は2.5641%となり、税負担増加率も0.0641%と少額に見えますが、税率が高くなりますと影響額も顕著となります。
例えば使用料の支払い額1,000,000の場合、税率は15%ですので、グロスアップ税率は17.647%へ、グロスアップ税額も176,470へと増加し、税負担の増加率も2.647%と3%に迫ってきます。これに対応して商業税も増えてきます。
源泉税率が15%
- 使用料の支払額 :1,000,000
- 逆算税率 100%‐15%=85%
- 売上額 1,000,000÷85%=1,176,470
- グロスアップ税額(源泉税率15%): 176,470
1,176,470-1,000,000=176,470 (グロスアップ税率17.647%)
- 商業税5%:58,823(1,176,470×5%)
- 売上額(+商業税):1,235,293
1,176,470+58,823
- 請求額1,058,823
1,176,470(本体売上)+58,823(商業税)-176,470(源泉税)
通常の契約の場合、ライセンス売上は1,000,000ですが、税込み手取り契約としますと、1,176,470へと176,470増加(グロスアップ税率17.647%)し、増加した分はグロスアップ後の源泉税です。2割近く負担額が増えてますが、源泉税率が2.5%の場合は、影響額は2.5641%で済んでました、15%の税率の場合は17.647%へと増加してきます。