1. 印紙税について
自主申告制に伴う新たな申告フォームを中心にして、これまで法人税、商業税、キャピタルゲイン課税と見てきました。最後の主な税目には、源泉税と印紙税がありますが、今回はとかくわかりづらいといわれる印紙税を取り上げたいと思います。
印紙税は、もともとは経済取引によって生じる利益に着目した税です。ただし、その利益(法人税)や取引自体(商業税)に課税するものではなく、広く経済取引で使用される文書を一定範囲で特定し、その文書の作成時点で課税しようとするものです。
どの国の印紙税にも課税物件表があります。課税物件表に列挙された文書にのみ課税され、それ以外の文書が作成されても課税はないという限定列挙主義が印紙税法の基本にあります。また、一口に契約書と言っても、より担税力のあるものとそうでないものとがあり、
税率や税額も異なってきます。
印紙税で最も重要なのは、どういう文書(契約書等)を作成すると、いくら課税されるのかです。
2.ミャンマーの印紙税法
ミャンマーの印紙税法は、1899年7月1日のIndia Act Ⅱを基本とし、その後若干の修正を経て、現在の2015年版に至っております。約120年前のインド印紙税の課税物件表を承継しており、第一次世界大戦勃発時の1914年に施行された旧会社法よりももっと古いわけです。
ただそうはいっても、ミャンマー印紙税法の抜本改正がなぜここまで遅れてしまっているのでしょうか。その背景には、ミャンマーにおける長期間の民間経済活動の停滞、それに伴う契約法等の未整備があるのかもしれません。また、紛争の司法(裁判所)的解決がまだ根付いておらず、私的契約の遵守を通じた法律関係の安定といった意識もまだ乏しいのかもしれません。
ただ税法の古さもさることながら、実際の納税手続きも日本などとは異なります。
ミャンマーの場合、印紙税の納税には、まず会社が印紙税の対象となる契約書原本を管轄税務署の担当官へ持参します。そうすると、担当官は契約書内容をチェックし、納付すべき印紙税額を契約書原本の裏側に勝手に記載し、納税額を指示します。次に納税者は契約書原本を担当官に預けたまま、直ちに所定の銀行に行って納税を済ませ、銀行からもらった納付書を税務署へ持参しますと、担当官は納付書と引き換えに原本を返してくれます、これで完了です。但し、契約書のサイン前に納税する方法もあり、手続きが少し異なります。
日本のように納税者が印紙税を買ってきて契約書に貼付し、保管しておけば足りるというものではありません。いちいち重要な契約書原本を税務署へ預け、銀行で納税し、再度契約書を引き取りに税務署へ行かねばなりませんので、銀行や税務署が混雑しておりますと、1日では終わらないかもしれません(サイン前の納税は、少し違うようですが)。
3.印紙税法の課題
印紙税で大切なことは、作成された契約書が、現行課税物件表(SCHEDULE 1)のどの文書に該当するかです。そのためには、課税物件表の古い契約類型を見直し、現在の経済実態を反映するよう課税文書に全体的に整理し、用語の定義や非課税物件の明確化も必要となります。そうしませんと、課税物件表の特定の文言等を無理に拡大解釈し、恣意的な解釈や運用がおこなわれる可能性が生じてきます。
ミャンマーの印紙税法はかなり古く、今後その抜本的改正が望まれます。しかし一方では、現行法の中にもミャンマーの国情や経済事情を反映した規定もいろいろあるのではと考えます。そのような規定の必要性、合理性も再検討しながら、解釈を明確化し、統一的に適用する必要があろうかと思います。
4.既存法令の解釈明確化に向けて
実は、最近ある方から印紙税の課税関係について、質問を受けました。外国法人との契約書に関し、印紙税の課税が指摘されそうで、いろいろ悩んでいたようです。ただご質問者やその関係者等から、課税根拠となる印紙税法の規定や内容に関し、あまり具体的な議論が聞こえてこなかったように思われましたので、当方、最低限必要と思われる事項を調べお伝えしました。どうもこういう規定があるので、それに従う限り、こういう結論になるはずと。ところが質問者からは、「理屈はわかるけど、そんな長ったらしい根拠や説明をしても、税務署の担当官が本当に理解してくれるのでしょうか、大丈夫でしょうか」と逆に念をおされてしまいました。
確かに、印紙税法はとても古いだけに、大変わかりづらい部分も多く、また今回の質問のように、契約の当事者が国内と国外に分かれている場合の課税関係では、より複雑となってきます。つまり、契約書の作成が海外で行われた場合、そもそも「契約書の作成とは何か」及び「印紙税の納税義務者は誰か」が前提として問われておりますが、こういった問題に関してミャンマーでは参考となる解説や事例集等はなく、課税当局からの体系的な説明や回答はほとんど得られていなかったように思えます。
こうした意味で、外国法人との契約に関する印紙税の課税は、ミャンマーへ進出する日系企業には大変身近な問題です。次回は、より論点を明確にした事例を設定し、検討する予定です。但し関連すると思われる規定を、気の付いた範囲内でとりあげ、その内容紹介にとどめたいと考えておりますので、類似のケースが実際に発生した場合は、個々の事例に即し、税務専門家に改めてご相談願えたらと考えております。
結論を先に申し上げますと、ミャンマー印紙税法には、課税文書の作成がミャンマー国外で行われた場合であっても、日本の印紙税法には存在しない特別な規定があり、その結果、日本の印紙税法の課税関係とは異なった課税が発生するように考えられますので、注意が必要です。具体的には、海外で作成された契約書であっても、その契約書が規定する物の移転やサービス提供がミャンマー国内で行われる場、また更には契約書がその作成された国からミャンマー国内に持ち込まれ、保管される場合にもミャンマー印紙税法の課税対象とする規定があるからです。このため、契約書がどの国で作成されたかという作成場所の基準以外に、その契約で定められた権利行使の場所や契約書の保管場所といったミャンマーとの物理的な関連性も重視され、本件のような事例に関する限りは、日本よりも課税対象範囲が広いように考えられます。
詳細は、次回まとめるようにいたします。