ミャンマーの印紙税②(第9回)

ミャンマーの印紙税②(第9回)

 

事例1
ミャンマー子会社A社は、資金不足に陥り、日本の親会社B社と50万ドルの金銭消費貸借契約を締結することになった。A社は合意内容に従い文書を2通作成し、代表者がサインして日本のB社へ郵送。
B社はこれにサインし、1通を自社分として保管し、1通をA社へ返送してきた。
また、この消費貸借契約には担保条項があり、Aの所有する工場(Aに所有権ありとし、評価額は100万ドル)に対しB社が譲渡抵当権を設定する旨、規定している。
これに関し、以下教えてください。
① 課税関係を考えるうえで、関連する印紙税の条文は何条でしょうか。
② その条文によりますと、借主A社及び貸主B社はその保管する契約書にミャンマー印紙税が課されるでしょうか。
③ 契約書には抵当権条項がありますが、これにより印紙税の課税はありますか。

結論:
本件は、ミャンマー国外で契約書が作成された場合、ミャンマー及び日本で保管される貸付契約書は、ミャンマーの印紙税の課税対象とされるのかです。本件貸付契約は、これに基づきミャンマー国内での権利行使(財及び役務提供等)が行われ、あるいは今後予定されているものではありません。このためA、B両社にとっては、この契約書はそもそもミャンマーで課税対象となる文書には該当せず、ともに印紙税の課税はないものと考えます。

解説
ミャンマー印紙税法の規定によると、①国内で作成された文書は、Schedule(課税物件表)に掲げる文書に該当する限り、それに従い課税されます。但し、例外があり、②ミャンマー国外で作成された契約書は、一定の要件を満たした場合にのみ課税され、更に、③実際に印紙税を負担する者は、課税文書に応じ、契約当事者のどちらか一方とされております。
従いまして、本件事例を検討するにあたっては、①契約書が一定の課税文書に該当するのか、②契約書が国外で作成されるとは、どういうことか、③その場合の課税要件とは何か、④金銭貸付契約の場合は、貸主と借主、どちらに印紙税の負担義務があるのか、です。
なお、ミャンマー印紙税の法令は大変わかりづらく、具体的な解説書等もない中、当局への確認も困難であり、他に関連する条文があるのか、そして何よりも実際どのような運用がなされているか、等に関し殆ど情報が入ってこないのが現状です。
本件事例1及び次回予定の事例2は、印紙税法の条文の一部に着目し、ウェブサイトへの掲載目的から、限られた時間内で整理したにとどまります。
このため、類似の事例が生じた際には、まず税理士その他の専門家に再度十分ご相談、ご確認の上で対応願います。また、過去に行政通達等が一部出ている可能性も考えられます。
以上を踏まえ、事例に関し、気の付く範囲内で根拠条文と思われるものを確認、整理してゆきたいと思いますので、ご参考に願います。

1.課税物件表の何号文書に該当するのか、また関係する印紙税法の条文は?
Schedule(課税物件表)、3条(課税の範囲)、29条(印紙税の負担者)等が重要となります。なお、以下は2015年版印紙税法に従っております。
(1) Scheduleの15号物件のBondに関しては、定義規定(2条の(5))があり、それによりますと金銭貸付契約書はこのBondに該当すると考えられますので、その文書(instruments)が課税対象となります。この場合、印紙税は貸付金の0.5%であり、50万ドル×0.5%=2,500が印紙税となります。
なお、a leaseという課税文書もありますが、不動産の貸付に限られます。
(2) 3条は印紙税が課税される範囲を規定しており、
(a) 印紙税が課税されるのは、ミャンマー国内で作成された文書に限られる
(b) 但し、国外で作成された文書であっても、為替手形や約束手形については特例がある
(c) 上記手形以外の一般の契約書が国外で作成された場合は、一定の課税要件を満たした場合は、課税される場合がある
(3) 印紙税の負担者ですが、15号物件のBondについては契約書の作成者とのみ規定されており(person・・executing(代表者サイン) such instrument(文書))ます。

2.ミャンマーの借主(A社)の契約書に印紙税が課税されるか
ミャンマー子会社A社が保管する借入契約書は、以下で述べるようミャンマー国外で作成された契約書と考えられます。結論を言いますと、本件契約書は、ミャンマー国内の財や役務提供等を規定するものではありませんので、課税されないものと考えます。
上記3条(c)項(国内所在財産等に関連文書であること)をそのまま引用しておきます:
every instrument (other than a bill of exchange or promissory note) mentioned in that schedule, which, not having been previously executed by any person, is executed out of the Republic of the Union of Myanmar on or after that day, relates to any property situate, or to any matter or thing done or to be done, in the Republic of the Union of Myanmar and is received in the Republic of the Union of Myanmar:
以上、3条(c)では、「国外作成」、「国内所在財産等に関連」、「契約書の国内での受領」がすべてandで結ばれておりますので、3要件のすべてが満たされた場合に、外国作成文書であっても課税(但し、納税義務は一方の当事者)と規定しております。
つまり、一般の契約書が国外で作成された場合は、次の①及び②を共に満たす場合にのみ、となります。
① 国内にある財、国内で提供される役務提供及びそれらを予定する文書であり、かつ
② かつその文書が国内で受け取られること

3.ミャンマー借主A社は、国外作成文書に関する課税の3要件を満たしているか
①国外で作成とは:
もともと文書の作成とは、署名(サイン)とされております。署名は、借主と貸主の2者が行いますが、契約成立は借主のサインにみでは足りず、貸主B社の最終サインが必要となります。このためBが日本で最終サインした時点で契約は成立しますので、本件契約書は国外で作成された文書と考えられます(但し、ミャンマーの課税当局も同様に考えることを前提)。
②ミャンマー国内での財、役務提供等があるか:
本件借入契約は、日本にある資金をミャンマーへ貸付金として送金するものであり、その送金行為も日本の国内銀行での送金手続きで完結します。このため、本契約はミャンマーでの権利行使等(国内にある財、役務提供)に関連しませんので、この2番目の課税要件は満たしていないと考えます。確かに貸付金に付随して利息がミャンマーで発生しますが、貸付後に発生する利息は、「any matter or thing done or to be done in the Republic of the Union of Myanmar」には含まれないと考えます。
③国内で受け取る:
ミャンマー国内で保管しておりますので、この要件は満たします。

以上、A社の契約書は、3要件のすべてを満たしているとは言えず、印紙税の課税対象文書には該当しないものと考えます。
ただこの際、実務上最も重要なことは、契約書上ミャンマー国外で作成された文書であることを明らかにしておくことです。
4.譲渡抵当証書として印紙税が課税される心配はないか
以上は、本件貸付契約書が、15号物件(Bond)に該当する場合の課税関係でした。
しかし本件借入契約には、一方で譲渡抵当による担保条項(担保債権50万ドル、評価額100万ドル)が別途も設けられておりますので、これが譲渡抵当証書(40号、62号文書)に該当しないか、問題となります。
ただ印紙税の基本的な話になりますが、印紙税は作成された文書(instruments)に課税されます。このためどんな巨額な取引が行われようが、文書の作成がなければ、課税は生じません。つまり、本件抵当条項は、単に譲渡抵当権の設定義務を課しただけであって、譲渡抵当の具体的な内容につき合意した文書とは言えませんので、課税物件表の譲渡抵当証書には該当しないものと考えます。