ミャンマーの印紙税③(第10回)

ミャンマーの印紙税③(第10回)

事例2
ミャンマー支店Y(本店は日本のX社)は、各種検査・測量業務を営んでいるが、業績悪化により支店の保有する検査機械・測量機器を現地法人Z社へ売却することにした。
Y支店は、合意内容に従い固定資産の譲渡契約書を2通作成し、Z社の代表者サインを入手後、この書面を日本本店Xへ郵送。Xの代表者がサインし、1通は本店で保管し、残りの原本1通をミャンマー支店へ返送し、支店はこれを買主Z社へ渡した。

本件は固定資産の売買に関する文書ですが、以下の点を教えてください。
① 関連する印紙税の条文は何条でしょうか。
② その条文にしたがいますと、売主X社及び買主Z社の保管文書は、課税対象となりますでしょうか。

結論:買主Z社が保管する契約書には、Z社が印紙税の納税義務を負うとされる可能性が高いように考えられます。

解説
事例1と同様に、①機械・機器といった固定資産の売買契約書は、課税文書に該当するのか、②契約書が国外で作成された場合、国外作成の契約書に対する課税要件を満たしているか、③課税要件を満たしているとしても、機械等固定資産の売買契約書にあっては、売主と買主、どちらに印紙税の負担義務があるのかが問題となります。
これに関し、事例1の金銭消費貸借契約書は、その対象資産は金銭のみで単純でしたが、本件は売買契約書ですので、その対象資産は国内外にわたり、種類も多種、多様で範囲が大変広くなります。事例2は、こうした一般の売買契約が、ミャンマー印紙税法のもとでどのような取り扱いを受けるよう規定されているのかを見るものです。
なお、以下は2015年版の印紙税法にしたがっております。

1.課税物件表の何号文書に該当するのか、また関係する印紙税法の条文は?
本件譲渡契約には、少なくとも以下3つの課税文書が関係しそうです。しかし、これらの課税文書相互間の適用優先順位等大変読みづらく、英訳条文を忠実にみてゆくほかございません。
 5号文書(契約書又は合意書)
 23号文書(Conveyance)       
 62号文書(Transfer)

(1)5号文書(契約書又は合意書)の契約書は、次の3つです。
 荷為替手形や株式の譲渡契約、
 JV、生産分与、建設契約その他これに準じた契約、
 特に定めのない契約(印紙税600チャット)
この5号文書の位置づけはよくわかりませんが、機械等固定資産の譲渡契約が、上記「特に定めのない契約」に該当するとされた場合は、印紙税はわずか600チャット。不動産譲渡契約書が次の23号文書とされ、譲渡価格に対し、ヤンゴンでは5%(3%+2%)の印紙税が課されている現状からすると、同じ固定資産である機械等が600チャットの印紙税で済んでしまっては、運用上均衡を失するとの見方もあろうかと思います。

(2)23号文書(Conveyance譲渡証書):
 Conveyanceとは、ある契約英語の解説によれば、主として不動産の譲渡証書という意味で使用されるとの記載があります。
 ただし、この印紙税法でいうConveyanceについては別途定義規定があり、譲渡対象となるpropertyには動産も含むとしておりますので、かなり広範囲の資産が取り込まれることになります。この譲渡証書にも非課税規定はありますが、著作権の譲渡など極めて限定されております。
定義規定:
whether moveable or immovable is transferred inter vivos and which is not otherwise specifically provided for by Schedule I つまり
  ①対象資産は動産か不動産かを問わず、生存中に譲渡されるもの(遺贈や死因贈与は含まないとの趣旨か?)とあり、次に
②別途定めのある資産には該当しないものとあります。
このため5号と62号に該当しなければ、本件譲渡契約は23号文書に該当するとされるように思えます。

(3)62号文書(Transfer):
では62号文書に該当するかですが、この文書は一般に株式譲渡が典型と理解されており、譲渡価格の0.3%が印紙税額となります。
対象資産は、以下の通り。
 株式
 市場性ある社債のうち一定のもの
 借用書、譲渡抵当証書、保険証書で担保されている権限の譲渡
 The administrator General’ Actの25条対象資産
 一定の信託財産の譲渡

以上3つの課税文書を総合しますと、62号文書の掲げる対象資産(The administrator General’ Act25条は無視してよい場合)には該当しませんので、運用上は、動産・不動産を問わないとする23号文書とされる可能性が高いのではと考えられます。
ただそうなりますと、印紙税額は売買価格の3%と高く、しかもヤンゴンに所在する資産の場合、更に2%が加算され、計5%課税となってしまいます。
いずれ償却され無価値となってしまう機器や機械等は、同じ固定資産であっても、不動産とはずいぶん性格が違い、担税力の面からも同様に取り扱ってしまってよいのか、課税文書と負担税額との整合性の観点からも、検討の余地があるように思えます。
しかし、ここでの事例としては、運用上23号文書(Conveyance譲渡証書)に該当するとして取り扱われた場合を想定し、その次の問題として、国外作成文書でも課税され場合に該当するのか、また課税される場合、誰が最終的に印紙税を負担することになるのか、みてゆきたいと思います。

2.国外で作成された本件契約書でも、ミャンマー印紙税の課税対象となるか。
事例1では、以下②の要件を満たしておりませんでしたので課税はありませんでした。しかし、今回は3要件をすべて満たしていると考えられますので、買主Z社が保管する固定資産の売買契約書には、印紙税が課税されると考えます。
① 日本法人X社が、日本での最終サインをした時点で契約は成立すると考えられますので、国外で作成された文書となります。
② ミャンマー国内で使用していた機械等の売却であり、譲渡直前にミャンマーにあった資産です。
③ 国内保管の契約書です。
また売主X社が日本で保管する文書ですが、国外保管ですのでミャンマーでは課税されません。

3.国外作成文書に課税される場合でも、Z社はその保管文書に関し、印紙税の負担義務はあるのか。
では、23号文書(譲渡証書)に該当に該当し、国外作成文書でもミャンマーで課税されるケースに該当する場合、かつするとされた場合、印紙税の負担者は誰かです。印紙税法の規定によりますと、契約書で格別合意されていなければ次によるとしており、具体的には23号文書の場合、Conveyanceという行為に着目し、以下の通り、譲受人としております。
in the case of a conveyance (—省略)- by the grantee
つまりConveyanceの場合、grantee(譲受人)が負担者とありますので、ミャンマー法人Z社が印紙税の納税義務者となります。
このようにミャンマーでは、契約当事者のどちらか一方に印紙税の負担義務を課す規定となっております。本件では、買主に負担義務があり、納付手続きをとる必要がありますが、ただ正確に申しますと、ミャンマー法人間の契約書の場合、納税義務のない相手方の契約書には100チャット等の大変少額な印紙税が課されております。
なお、課税対象とされる印紙税と納税義務(税の負担)との関係に関しては、次回の最後で取り上げる予定です。