ミャンマー税務・会計 ①

1.連載にあたって一言

ミャンマー税務の概要に関しましては、まず初めに税制の整備状況も含めた税務運営の実態について、具体的に触れておいた方がわかりやすいかと思います。
それから会計ですが、ヤンゴンの証券取引所の上場会社はわずかに5社。所得計算の基礎となる企業利益及びその会計処理のルールが、その国にある程度根付いておりませんと、法人税の整備しづらくなります。法人税の規定の多くは、そこ国の会計処理ルールを税務独自の目的から修正するものが多いからです。一般株主等に対する適正な情報開示要請が弱くなりますと、会計実務の進展も遅れがちになります。

2.自主申告納税方式の採用

ちょうど今月(2020年3月)、ミャンマーの課税当局から大きな税務トピックが公表されました。外国法人の申告制度(法人税及び商業税)に関し、2020年10月開始年度から賦課課税方式をやめ、自主申告納税方式へ全面移行するとのこと。従来、大規模法人に対してのみ認めてきた自主申告納税方式を規模の大小にかかわらず、すべての外資系法人にも適用するという大変大きな制度の変更となります。但し、公表とはいっても、事前に当局のホームぺージ等で掲載ではなく、2月末~3月にかけて会計事務所の職員や会社の方が、たまたま税務署を訪れた際、その担当調査官から突然知らされたようです。以下、現在のミャンマー税制・実務の一端を知る上で、この問題に少し触れたいと思います。

3.賦課課税制度と自主申告制度

簡単に言いますと、日本などで採用されている自主申告納税制度は、年度末に申告がなされますと、第一義的にはその申告内容を信用し、税額が確定してしまう制度です。納税者の申告通り納税額が確定してしまいますので(租税債務成立)、国が納税者に支払い請求できる税額(租税債権)も当初申告納税額に限定されてしまいます。もし国側でこの申告内容はおかしいと考えても、税務調査等を通じ申告所得又は税額計算の誤りを税務署側で立証できないと、当初申告を覆すこともできないとするもので、税務当局としては大変手間がかかるようになります。
一方、賦課課税方式は、一応年度末に申告書を提出しますが、それはあくまで所得や税額計算用の基礎資料にすぎません。これらをもとに各調査官が会社に質問し、追加資料の提出を求め、独自資料も含めて総合的に審査・検討し、当局が正しいと判断する所得金額及び納税額を納税者に通知してくるもので、この通知をもって納税すべき税額が確定(租税債務成立)するとするものです。このため、納税者の申告対象期間(10月1日~翌9月30日)を所得年度(Income Year)というのに対し、税務当局がこれを審査し、最終納税額通知してくる期間を賦課課税年度(Assessment Year)といい、所得年度の翌年1年間を言いますが、実際は遅れる場合が多いです。

4.自主申告納税への移行理由

この自主申告納税への移行は、多くの日系企業が望んでいたところです。それは賦課課税年度における税務署の所得認定方法に関し、一部恣意的な面が認められ、一方的に最終納税額の通知のみが来てしまい、しかもこの是正を求める法的手続き、機関が存在又は機能しないことに対する、課税当局側の改善策の一つと一般にいわれております。
ただ一国の税制は、その経済・社会環境の中で、国際的な動向も踏まえながらも、基本的にはその国自身が決めてゆくものですので、法令及びその取扱いは外資系企業も含め、これを遵守しなければなりません。

5.ミャンマー税務の実態と留意点

では外資系企業として、法令順守の立場からこの自主申告制にどう対応しなければならないかです。現在、自主申告制度へ移行のため申請資料が納税者用に作成、配付されております。ただ新制度の法的裏付け、変更後の制度の基本内容に関し、現状以下のような疑問を持たれる方も多いのではと考え、ご参考にしていただければと思います。

(1)そもそもこれまでミャンマー所得税法は、賦課課税方式を採用しているとされてきました。今回申告納税方式に移行するのであれば税制改正は必要ないのか、また自主申告を制度的に担保する法的措置等も併せて明確にしておく必要はないのか、法改正は今のところ全く予定されていないかのように聞こえるが。

(2)納税者に第一次的な税額確定権を与えるのであれば、一方で課税漏れや脱税行為を防止策も必要となってきます。そのためには税務調査制度の充実、関係者も含めた書面照会等々、情報取集体制の整備も不可欠となってきますが、そうした措置はまだ予定していないのか。これまで調査官が会社に来て調査することは、原則としてありませんでした。実際に今後どうやって税務調査し、申告所得の是正を図ってゆくのでしょうか。

(3)税務調査のあり方が、今後一層重要となってきますと、何を基準にどのように経費を否認するか等、所得税法の損金算入規定等の基本的規定を整備し、より明確にしておきませんと、自主申告制に移行した意味も問われかねないのでは。