無形固定資産と繰延資産(第16回)

ミャンマー法人の監査報告書を見ておりますと、貸借対照表によく無形資産という勘定科目が計上されております。

無形資産、中身はと思ってみてゆきますと、多くの場合、繰延資産又はこれに準ずるものが多く、支払い時に一時の費用処理が適当でないとし繰延費用として資産計上したものがほとんどでした。一定期間内で費用化されるため、単なる費用の塊にすぎず、譲渡性もなければ、資産価値もありません。

ではなぜ、こうした費用が無形資産として計上されているのでしょうか。原因の一つは、固定資産に関する税務耐用年表や会計上の基本勘定科目がミャンマーではまだよく整理されていないことも影響している可能性が考えられます。

なお、今回(16回)を持ちましてウェブサイトでのミャンマー税務及び会計に関する私の執筆は終了とさせていただきます。

 

1.ミャンマーにおける税務耐用年表

日本と同様、減価償却費計算を企業の自主的な判断にゆだねることを避け、税務上一定の統一性を確保するため、ミャンマーでも耐用年数省令(連邦大臣がサインしてます)が法定されております。課税所得計算上は次の7つの資産区分に大分類し、そのもとで詳細区分を設け、耐用年数を法定しております。

  • 建物
  • 器具・備品
  • 機械・装置(1)、(2)
  • 水運関係(船舶)
  • 陸運関係(自動車)
  • その他の機械・装置(20項目)
  • その他の事業用資産(35項目)

 

ここには特定業種に属する固有な事業用固定資産もこの耐用年数表の中に含め・規定しているため、複雑になっております。

 

2.税務耐用年数の規定の仕方

ところで耐用年数を法定するとなりますと、対象資産の分類・範囲に関し、会計慣行をベースにしながらも、実際の事業活動の実態に合わせた形で整理してゆく必要があります。

現行の年数表では、資産は大きく7区分されておりますが、ここには繰延資産や無形資産といった勘定科目がなく、何年で費用化するのか、統一指針が示されておりません。これは有形固定資産に該当しないからでしょうが、しかし一定期間内に費用化が要請されるものは有形固定資産には限られません。まず資産分類の詳細として繰延資産や無形資産も含め最低限必要な勘定科目を耐用年数表に新たに設け、既存の減価償却資産の耐用年数と同時にその費用化期間を明示するよう、ミャンマーの耐用年数省令を見直し、整理する必要があります。

その場合、例えば、①一般の固定資産に関する税務耐用年表、②特定業種に属する事業用固定資産の耐用年表、③無形資産の耐用年数表のほか、④正確には資産といえない繰延費用(繰延資産)の償却年数等といった資産分類も考えられ、複数の耐用年数表となることも想定されます。とにかくわかりやすく、資産の特性を反映した耐用年数表の見直しが望まれます。

それから現在の耐用年数表は、格別明示されていない資産がある場合は、その耐用年数は年5%の償却(20年)と規定されており、また納税者がその償却期間の合理性を立証するものを提出し、課税当局の承認が得られれば、その年数を使用できるとされております。

しかし、これはあくまで例外であり、一般の事業者が容易に減価償却計算できるよう、科目とその耐用年数、対象資産は事前に明確に定めておくべきものです。

この場合、例えば無形資産や繰延資産については、耐用年数表以前に、無形資産に関する特別法、会社法、会計慣行、税法(政令)等によりあらかじめ確定している場合も多く、その意味では税務の耐用年数表は、法律や会計慣行面を整理する意味合いも強いかと思います。

ミャンマーでは最近知財法が制定されたこともあり、無形資産の内容やその税務上の耐用年数を明確にする必要あります。法律上の権利は法定有効期限(法律上の保護期間)内となります。今後は、何が無形資産として認められるかの認定自体も大変重要となってくるかと思いますし、減価償却しない無形固定資産もありえます。

 

3.会計面での整理(会計士業界等)

そもそも減価償却制度は、固定資産が時の経過とともに物理的、経済的に減価してゆくという事実に着目し、まずは企業の自主判断により適切な基準により原価配分してゆくものです。このため減価償却制度は、その属する業種や保有資産の性格を考慮しながら、これまで培われた企業会計理論の考え方や会計慣行のもとに成り立っている気がします。そうであれば、ミャンマーの監査法人等では多種多様な業種及び企業の財務諸表を作成し、これに関する情報も多く、有用な資産分類や勘定科目に関するノウハウも蓄積されているはずです。このため一般の企業が貸借対照表でよく使用される重要な資産分類や勘定科目を一度整理し、課税と協力しながらサンプルとして広く公表、開示してもらえますと、納税者としては大変ありがたいのですが、ミャンマーの会計士業界からはこれまでのところそうした動きは見られないようです。