業績悪化、ミャンマー撤退に伴う税務(第15回)

コロナ、その後の政変による政治、経済不安とその長期化の中、ヤンゴン日系企業の財務諸表もかなりいたんできており、ついに撤退を余儀なくされそうな企業も増えております。もっともミャンマーではこれまで外資撤退の経験が多くはなかったせいか、あるいは新会社法の会社清算規定の適用件数がまだ少なかったせいか、撤退、清算に伴う法制度や税務・会計の実務が明確でなく、手探りで対応せざるを得ない面も多いのでは思います。今回は、税務面から可能な範囲で撤退にかかる論点を整理し、そこから浮かび上がるミャンマー税制の現状と対応策につい簡単に触れることに致します。

 

まずミャンマー事業からの撤退方法ですが、

①   一般にはミャンマー子会社の清算です、次に

②   ライセンス、免許等の関係からミャンマー子会社株式の売却という方法もあろうかと思います。

清算の場合は、清算の開始決定後、子会社の資産売却と債務の返済等を行い、株主に分配できる残余財産があれば日本の親会社に分配(資本の戻り、みなし配当)することで終了となります。ただ、ヤンゴンから撤退する企業にとって、親会社への清算配当などはなく、せいぜい増資資本金の一部が戻ってくる程度です。

株式譲渡ですが、譲渡対象会社にはオーナーからの多額の借入金が残っているケースが多く、会社を譲渡するにあたりその負債の整理が必要となります。

 

1.     撤退とミャンマー税制の問題点

会社清算及び株式売却に関し、検討課題はいろいろあろうかと思いますが、ミャンマーの現状にかんがみれば、特に撤退時に発生する債務免除益に対する課税がほとんど整理されていない気がしております。順をおって記載しますと、

·         ミャンマーの繰越欠損金制度では3年繰越可能と規定されているが、実際に機能しているのか

·         撤退に伴う債務整理に際し、多額の債務免除益が発生する場合、課税関係が生じてしまう可能性はないのか

·         会社の清算にあって、税が清算の障害とならないような課税制度が用意されているのか、用意されていない場合は、今後の対応策は何かあるのか

·         DES(債務の株式化)は可能か(増資の一種であり清算時に行うのは難しいのでは)

上記の欠損金繰越、債務免除益、清算時課税の3項目は、相互に密接に関連しておりますが、一言でいえば、清算過程の中で発生する所得に対する課税原則の話です。

会社が清算手続きの開始決定に入ると、日本などでは税が清算手続きの妨げとならないよう、一定の清算課税制度が用意されております。まず清算開始から完了までの間を一事業年度ととらえ、これを新たな課税事業年度(清算事業年度)としました。そしてこの清算事業年度における所得には、通常年度の所得計算原理(収益-費用=所得)に準じて計算する方法もあれば、清算年度特有な課税所得計算として、例えば財産課税制度を設け、残余財産の価格から資本金や課税済み利益を控除した残額に対し課税する方法も考えられます。日本の場合は、当初は財産課税制度でありましたが、現在では通常年度の所得計算方法を基本としながらも、欠損金繰越等に特別の配慮をした形になっております。

ではミャンマーの税制では、何らかの清算課税制度といえるものはあるのでしょうか。

結論を先に言いますと、そもそも通常の事業年度と異なる清算事業年度なる概念もないことから、清算時の所得計算も格別の規定はおいておりません。そうなりますと、具体的にどのような問題が生じてしまうか、見てゆきましょう。

 

2.自主申告制度へ移行と繰越欠損金について

課税当局は2020年10月開始の事業年度から、これまで恣意的な課税制度として批判が多かった賦課課税方式をとりやめ、自主申告納税方式へ移行しました。つまり課税所得はまず納税者自らが適正に計算、申告し、租税債務は第一義的にはこの時点で確定するとするもので、もし国側でこの申告内容が適正ではないと判断するのであれば、税務調査等を通じその誤りを税務署側で立証責任を負うというのが、制度の根幹です。このため、並行して税務調査体制の確立が大変重要となってきますが、まだ会社での法人調査は特定の大規模法人に試験的に行われている程度で、まだ一般的とは言えない状況です。

現在、法人税申告をしますと、その内容を課税当局が机上で審査し、その結果を「Confirmation for Self-Assessment」により通知してきます。この通知書を今でもTax clearanceと呼んでおりますが、事実上この通知により所得金額と納税額が確定すると取り扱われております。この通知書に赤字所得金額の記載があれば欠損金として翌期に繰り越せますが、実は空欄となっていて赤字法人であってもその赤字額の記載がない場合が多いとのことです。つまり欠損金の繰越控除制度に関しては、自主申告制度に移行したといっても、3年間の繰越規定が実際は機能していないとの指摘が多いように聞いております。

3.ミャンマーに「清算事業年度」、「清算事業年度における課税ルール」があるのか

ミャンマーの所得税法では、法人の清算開始決定がなされると、清算開始後1か月以内に、期首から解散時までの税務申告書を提出するとの規定があるのみで、他に格別な規定等はありませんので、清算開始決定日までの申告書を提出すれば、ミャンマーではすべてそれでおしまいというような感じになっているような気がします。このため事業停止後~清算完了の間については、申告不要との理解からか、特別な申告フォームも用意されておりませんし、申告書記載要領にも清算に関する格別の取り扱いは記載されておりません。こうしたことから、ミャンマーでは清算事業年度なる概念もなければ、そのため清算特有の課税ルールもないといえます。

おそらく会社は清算時点では事業活動はないため課税所得も発生ない、申告不要と課税当局は考えたのかもしれません。あるいは、ミャンマーでは人が死亡した場合、これまでの資産負債を整理し、残った財産を再評価し、清算所得として課税するという相続税の考え方は基本的にはございません。このため清算も会社の死ととらえれば、清算過程では課税すべき所得は生じないと考えているのかもしれません。

しかしながら注意すべきは、清算時の債務整理の際には債務免除益が発生するのが一般です。そしてミャンマー所得税でいう課税所得には、何も継続的な事業活動のみから発生するものばかりではないという点です。法人税申告書FORMの裏面にあるInstructionsによれば、債務免除益は課税所得に含まれると明確に記載しております。では清算開始決定後~清算終了の間に多額の債務免除益が発生した場合、これを相殺するに足る繰越欠損金もほとんどないとしますと、理屈上は課税所得が発生すると認定される可能性が高いのではと考えられます。清算過程で生じた債務免除益は課されないとする非課税規定が所得税法や通達等にないからです。

つまり、ミャンマーのような現金決済中心であり、他社への資金を貸し付けといった商慣習はこれまでなく、しかも貸付金をあとで放棄するような例がなく、倒産法制も整備されていないと思います。日本の土地のような含み資産が清算時に発生する状況にもなく、清算時に多額の収益が発生するとは想定外であったのでしょう。しかし、外資が進出し、子会社に資金支援後に撤退となりますと、多額の債務に見合う免除益課税が生じる可能性が出てくるわけです。このとき通常の所得計算ルールに従えば、清算期間中であっても申告、納税は必要との見解も想定されます。

4.企業の閉鎖と株主責任

それからミャンマーでの清算に関連して、所得税法には以前からよくわからない規定があって、今も残っているようです。24条ですが、その日本語訳を見ますと「企業を閉鎖する場合の責任」と題して、「企業を閉鎖する場合、その企業の株主全員がその企業からの所得に対し、納税責任がある」という大変短い規定です。詳細を定めた規則や通達等はないようです。もしこの規定が今も生きており、この日本語訳でよいとしますと、株主がその出資の範囲を超えて外部の者に責任を負うことは、ミャンマー会社法の株主有限責任の原則に反し、この24条の意味や趣旨がわかりかねます。例えば清算前から多額の租税債務があるにもかかわらず、清算人が勝手に株主に全額配当してしまったり、一般債権者に全部優先弁済したりして、そのため納税資金に不足が生じたような場合であれば、国税債権の不当侵害に対する救済策ということで理解できますが、もしそうであれば清算人の責任も問われるはずですが、そうした規定とはなっておりません。

そうした問題がある一方で、今もこの条文が生きているとしますと、清算開始後も所得が発生すれば納税責任が発生を規定しているとも読め、債務免除益が発生すれば、株主責任が追及されかねない事態が想定されることになります。せっかく清算手続きも終了時に大損している株主に対し、債務免除益課税による納税額を負担させることになりますと、清算が事実上困難となってしまいます。この所得税法の24条は、清算時を想定した唯一の所得税法の規定のように読めますが、本当に条文として残っているのか(ミャンマーではこうした確認自体が結構煩雑、時間のかかる作業です)、もし残っているのであれば、規定の趣旨と課税上の取り扱いを明示すべきです。

 

5.株式譲渡と債務免除益課税(DESの場合)

親会社や個人オーナーからの多額借入金がある場合は、株式譲渡に先立ち債権切り捨てを迫られる場合があり、その時も清算会社には債務免除益が発生します。もちろん清算開始前でしたら債権の現物出資(増資)により債務を資本に転換し、債務免除益の発生を回避する方法が考えられます。ミャンマーの会社法上も債権の現物出資は認められておりますので、いわゆるDES(債務の株式化)が可能なのですが、清算開始後DESとなりますと、もはや継続企業ではない清算会社の増資行為として、会社法上実行が無理ではと考えますが、念のためミャンマー会社法の専門家にご確認願います。

 

6.結論(清算時における債務免除益課税にどう対応するのか)

以上、清算又は株式譲渡時においては、ミャンマーでは債務を整理する局面で債務免除益が発生し、このままですと課税対象と認定されてしまう可能性もございます。その解決策として、いろいろあるかもしれませんが、例えば日本のように期限切れの欠損金を使用できるようにするか、さもなければ損益法ではない財産課税制度での対応により、債務免除益課税を回避する方法が考えられます。

これに関し、このシリーズでも既に触れましたが、期末に計上した為替差損益は非課税とした通達が二つ出ておりますが、そこでの課税当局の立場は、課税するかどうかの判断基準として、実現、未実現の概念を持ってきている点です。しかし、この概念は、貨幣性資産の期末評価という局面よりも、清算時に弁済原資がないために債務免除益を計上せざるを得ない、収益とされても裏付けとなる資金の流入はないといった局面の方が概念として、もっと適当な気がしております。ですから為替差損益に関する二つの通達に乗っかる形で、税が清算手続きの妨げにならないよう、清算時に発生する債務免除益については、金銭的裏付けのない収益として未実現利益にほかならず、課税所得を構成しないとする通達を出すことも一つの選択肢ではと考えます。課税当局としても手間のかかる法改正によらずに、既に公表されている通達と似たものを出すだけでよければ現実的な方法とも考えられます。